運動音痴のサッカー好きが大人になったら

かろうじて小学校はサッカー部。その後は文化部だった運動音痴が、それでもオタク的なサッカー好きに成長して、フットサル、息子の所属するスポーツ少年団でパパさんコーチをこなす奮闘記

過去試合を振り返ろう3 EURO2008 スペインvsイタリア

個人的には、歴史を変えた試合No.1


No.1という表現を連続して使用するけれど、この大会のスペインは、代表チームという括りでは歴代最強のチームだったと僕は思う。

ルイス・アラゴネスという名伯楽が選手に自由を与えた結果、とてつもなく技術の高い選手たちが、スペインの持つフィロソフィーを体現したティキ・タカを、戦術という枠組みを超え、選手間の相互理解だけで成り立たせた奇跡。
これ、グアルディオラ就任前ですよ。あの戦術が世界最強、だからみんなで真似するんだ、という流れなら理解できるけど、そうじゃなくて、無から作り出していた。

実際のところ、完全に「無」だったわけじゃなく、先に書いたようにフィロソフィーがあって、そのフィロソフィーが国民内で周知されている中から出来上がることができて。


羨ましく思ったものです。
俺たちのサッカーはこれなんだ、というものを強く持っている国を。

だって、楽でしょ。
戦術の統一なんてする必要もないし、育成年代含めて、それにふさわしい人材を生み出せる土壌があるわけだから。
それに固執してしまうきらいはあるにせよ。


日本代表なんかで、「自分たちのサッカーを」なんて声が聞こえることがあるけれど、「自分たちのサッカーって何?」「それってころころ変わってない?」「それって小学生も、その辺のおっちゃんたちも理解できている(文化として根付いている)ものなの?」と疑問を思うわけで。


閑話休題


で、この大会のスペイン、ティキ・タカの美しいサッカーで相手を圧倒したのもあるけれど、それにプラスして良かったなぁ、と思うのはコンディションのピークが各選手によってずれていて、それによってチームが落ち込む時期がなかったということ。
グループリーグはイニエスタ、ビジャの調子が良く、イマイチかなぁと思っていたシャビが準決勝以降、大活躍してくれて、フェルナンド・トーレスも決勝戦でゴールを奪ってくれた。
それになにより、マルコス・セナでしょう。この大会だけ、ってな感じになってしまいましたが、MVPは紛れもなく彼のもの。弱点であった中盤の強度を一手に引き受けて上げてくれて、かといって、守備専というわけでもなく、効果的にパスを散らしてくれて。

戦術もコンディションも選手の質も、まごうことなき世界最強でした。

結局、この後、主要大会を3連覇することになるのだけれど、一番強かったのはこの時だなぁ。
EURO2012の時なんか、遺産でなんとか優勝したようにしか見えなかった。


で、決勝トーナメント1回戦のイタリア戦。

もう圧倒的にスペイン優位(それまでの試合ぶり、ピルロガットゥーゾ出場停止)の中、それでも相手は「あの」イタリア。
スペインからすると、イタリアという国は目の上のたん瘤以外の何物でもないわけですよ。
攻撃サッカーで見るものを楽しませるプレイをしたところで、結局最後はカテナチオにぷちっと潰されるみたいな。

88年間公式戦で勝っていないという歴史で判るでしょう。

なので、腐ってもイタリア、今回もやられちまうんじゃ、という思いがスペイン好きの僕からは拭えず。特に調子が良かったが故に、逆にそう思ってしまうという。


試合展開も、危惧したとおりに進んでいく。
ボールを回すも決定的なチャンスは作れず、途中からイタリアも引き分け→PK狙いを露骨に狙いだし。別にそれを批判したわけでなく、それをむざむざとやり切らせてしまったスペイン代表のメンタル面は幾許のものか。


PK戦になった瞬間、「負けた」と思いました。
PK戦はジャンケンみたいなもの、という人もいるけれど、それまでの試合の流れというのが如実に影響していて、自慢ではないけれど、この試合の前まで、PK戦の勝敗すべて当ててきました。
なんとなくわかる。流れ、こっちだなぁーとか。逆に流れ良かったのに決め切れなかったから、風向き変わるぞ、とか。

これの2年前、W杯決勝でイタリアがフランスにPKで勝ったわけだけど、あれもジダンの退場がなく、そのまま終わっていれば、フランスが勝っていたと僕は感じている。そういう流れだった。でも、頭突きで潮目が変わってしまった。


そんな風に試合の雰囲気を多分に引きずってしまうもので。
この時の雰囲気としては、ミッションコンプリートしたイタリアが、点を取れなかったって意気消沈しているスペインを叩くという絵柄しか浮かんでこず。


でも、画面越しのスペイン代表から意気消沈している感が見られなかった。


自分たちの「負け」を受け入れてる、とでも言うのが適切か。
それまでの圧倒的な攻撃力をいとも簡単に封じられて、けれどそこに悔しさはなく、そのままを受け入れていて。
あーあ、点とれなかった。イタリアは凄いなぁ、俺ら情けないな。
「勝負」には負けたな、けど「試合」には勝つよ、みたいな。


中身を強く追及してきた国が、恥も外聞も捨てて結果に拘った瞬間。
この後の4年間に及ぶ快進撃の、という世界サッカーを変えたターニングポイントはまさにこの試合だった。
そして、その試合に勝てたのは、これまでになかったメンタルをスペイン代表が持ちえたからだと思う。


いったい何がきっかけで彼らが変わったのか、判らないけれど。
でも、この後のシャビも、チェルシーにバス並べられて、ぶつくさと恨み言漏らしてたよなぁ(笑)
あの一瞬だけ変われたのかな。
けど、それによって世界チャンピオンまでなれた。